【データを読む】就労継続支援B型は儲かる?開業前に知っておくべき経営実態を公認会計士が解説
就労継続支援B型は儲かる?
はじめに
「就労継続支援B型で開業すれば儲かる」という話を耳にしたことはありませんか?確かに、障害者人口の増加に伴い、就労継続支援B型のニーズは増加の一途をたどっています。しかし、開業すれば必ず儲かるというほど甘い世界ではありません。就労継続支援B型の経営には、特有の難しさやリスクも存在します。
そこで本記事では、就労継続支援B型の開業を検討している方に向けて、厚生労働省の最新統計データ(障害福祉サービス等経営実態調査、障害福祉サービス等経営概況調査、社会福祉施設等調査)を基に、就労継続支援B型の経営実態を公認会計士が徹底分析します。
就労継続支援B型は儲かるのか?儲からないのか?
数字から読み解く、就労継続支援B型のリアルな経営状況を分かりやすく解説します。
各統計調査の概要
ここでは、障害福祉サービスを取り巻く様々な統計調査、具体的には「障害福祉サービス等経営実態調査」、「障害福祉サービス等経営概況調査」、「社会福祉施設等調査」について、それぞれの概要を分かりやすく解説していきます。これらの調査は、障害福祉サービスの提供体制や経営状況を多角的に把握し、より良いサービス提供のための政策立案に役立てられています。
障害福祉サービス等経営実態調査・経営概況調査
障害福祉サービス等経営実態調査及び経営概況調査は、いずれも障害福祉サービスを提供する施設や事業所の経営状況を把握し、報酬改定の影響を評価し、今後の報酬改定の基礎資料とすることを目的としています。
経営実態調査は、報酬改定の翌々年度に、報酬改定の翌年度の決算を対象として実施されます。
経営概況調査は、報酬改定の翌年度に、報酬改定年度と報酬改定の前年度の決算を対象として実施されます。
社会福祉施設等調査
社会福祉施設等調査は、全国の社会福祉施設の現状(施設数、利用者数、職員数など)を把握し、社会福祉行政を進めるための基礎資料を得ることを目的として、毎年実施されています。
障害福祉サービス等経営実態調査・経営概況調査結果の分析
経営成績の状況
1施設・事業所当たり損益計算書
(単位:千円)
令和4年経営概況調査 | 令和5年経営実態調査 | |||||
令和2年度決算 | 令和3年度決算 | 令和4年度決算 | ||||
事業活動収益(売上高) | 33,645 | 100.0% | 35,689 | 100.0% | 32,872 | 100.0% |
事業活動費用(営業費用) | 31,566 | 93.8% | 33,441 | 65.7% | 30,078 | 65.0% |
給与費 | 22,425 | 65.4% | 23,744 | 65.7% | 21,629 | 65.0% |
減価償却費 | 1,200 | 3.5% | 1,315 | 3.6% | 1,170 | 3.5% |
国庫補助金等 特別積立金取崩額 | -337 | -1.0% | -324 | -0.9% | -215 | -0.6% |
委託費 | 675 | 2.0% | 690 | 1.9% | 453 | 1.4% |
その他 | 7,603 | 22.2% | 8,016 | 22.2% | 7,041 | 21.2% |
事業活動収支差(営業利益) | 2,079 | 6.2% | 2,248 | 6.3% | 2,794 | 8.5% |
収支差(当期純利益) | 1,504 | 4.4% | 1,668 | 4.6% | 1,739 | 5.2% |
経営成績の状況は、事業活動収支差率(営業利益率)6.2%~8.5%、収支差率(当期純利益率)4.4%~5.2%と一見すると悪くはないように思えますが、収支差率の分布のグラフを見ると最頻値が-5%~0%となっており、また、半数近くが赤字となっていることが見て取れます。儲かっている企業とそうでない企業とで、明暗が分かれているような状況と言えるでしょう。
本統計では、経営主体別(法人形態別)の内訳も公表されているので、更に掘り下げて見ていきましょう。
1施設・事業所当たり損益計算書(経営主体別)
(単位:千円)
(令和4年度決算) | 令和5年経営実態調査社会福祉法人 | 営利法人 | NPO法人 | |||
事業活動収益(売上高) | 36,507 | 100.0% | 31,868 | 100.0% | 29,185 | 100.0% |
事業活動費用(営業費用) | 30,710 | 84.1% | 31,230 | 98.0% | 29,299 | 100.4% |
給与費 | 23,650 | 63.1% | 21,455 | 67.3% | 19,612 | 67.2% |
減価償却費 | 2,057 | 5.5% | 379 | 1.2% | 756 | 2.6% |
国庫補助金等 特別積立金取崩額 | -540 | -1.4% | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% |
委託費 | 694 | 1.9% | 388 | 1.2% | 222 | 0.8% |
その他 | 4,849 | 12.9% | 9,008 | 28.3% | 8,709 | 29.8% |
事業活動収支差(営業利益) | 5,797 | 15.9% | 638 | 2.0% | -114 | -0.4% |
収支差(当期純利益) | 3,623 | 9.7% | 358 | 1.1% | -506 | -1.7% |
ここで注目すべきは社会福祉法人と営利法人。社会福祉法人は事業活動収支差率(営業利益率)15.9%、収支差率(当期純利益率)9.7%と統計全体の数値を上回り、営利法人は事業活動収支差率(営業利益率)2.0%、収支差率(当期純利益率)1.1%と統計全体の数値を下回る状況にあります。
すなわち、統計全体の数字が良かったのは、社会福祉法人が牽引したおかげであり、営業年数が短い企業の割合が多い営利法人の経営状況は厳しい状況と言えます。
費用の項目別にみると、営利法人は社会福祉法人と比べて、その他の事業活動費用と給与費の割合が高く、経営の効率化が図れていないことが伺えます。
以上より、営業年数が短い企業の割合が多い営利法人の経営状況は厳しい状況にあることから、新しく就労継続支援B型事業所を立ち上げても、簡単に儲けることは難しいと言えるでしょう。
キャッシュ・フロー(現預金の増減)の状況
1施設・事業所当たり簡易キャッシュ・フロー
(単位:千円)
令和4年経営概況調査 | 令和5年経営概況調査 | ||
令和2年度決算 | 令和3年度決算 | 令和4年度決算 | |
事業活動収支差(営業利益) | 2,079 | 2,248 | 2,794 |
減価償却費 | 1,200 | 1,315 | 1,170 |
国庫補助金等 特別積立金取崩額 | -337 | -324 | -215 |
営業キャッシュ・フロー(簡易) | 2,942 | 3,239 | 3,749 |
借入金返済支出 | -416 | -539 | -552 |
営業外・特別損益 | -576 | -581 | -1,054 |
キャッシュ・フロー(簡易) | 1,950 | 2,119 | 2,143 |
1施設・事業所当たり簡易キャッシュ・フロー(経営主体別)
(単位:千円)
(令和4年度決算) | 令和5年経営実態調査社会福祉法人 | 営利法人 | NPO法人 |
事業活動収支差(営業利益) | 5,797 | 638 | -114 |
減価償却費 | 2,057 | 379 | 756 |
国庫補助金等 特別積立金取崩額 | -540 | 0 | 0 |
営業キャッシュ・フロー(簡易) | 7,314 | 1,017 | 642 |
借入金返済支出 | -339 | -1,087 | -473 |
営業外・特別損益 | -2,174 | -280 | -393 |
キャッシュ・フロー(簡易) | 4,801 | -350 | -224 |
キャッシュ・フロー(現預金の増減)の状況は、経営成績の状況より深刻な状況が浮き彫りとなります。こちらも統計全体としては問題がないように見えますが、経営主体別に見ると経営成績の状況と同じく社会福祉法人が牽引している状況です。特に営利法人は、営業キャッシュ・フローを借入金返済支出が上回っている状況(本業で稼いだお金だけでは借金を返済できない状態)であり、早急な経営改善が求められます。
以上より、営利法人の就労継続支援B型事業所の資金繰りの状況は厳しく、改善が見込めない場合には、遠くない将来多くの会社がつぶれることが予想されます。
社会福祉施設等調査の分析
社会福祉施設等調査のデータからは、就労継続支援B型事業所の数が右肩上がりに増加しており、今後もその傾向が続くことが予測されます。これは、利用者にとって選択肢が増えるというメリットがある一方で、事業者にとっては競争激化を意味します。新規参入を検討する際は、市場分析を十分に行い、明確な差別化戦略を立てることが重要となるでしょう。
(事業所数)
平成30年:11,835
令和元年:12,497(+662)
令和2年:13,355 (+858)
令和3年:14,407(+1,052)
令和4年:15,588(+1,151)
まとめ
最新の統計データに基づく就労継続支援B型事業所の経営状況は、一見すると順調に見えますが、その内情は決して楽観視できるものではありません。多くの事業所が黒字経営を達成している一方で、その陰には社会福祉法人の存在が大きく影響していることが明らかになりました。
特に営利法人の経営状況は厳しく、本業で稼いだ収入だけでは借金の返済もままならない状況です。これは、統計データからも裏付けられており、資金繰りの悪化は深刻な問題となっています。
新規参入を考える事業者にとっては、こうした状況をしっかりと認識しておく必要があります。市場分析や競合との差別化など、綿密な事業計画と戦略が成功の鍵を握るでしょう。
就労継続支援B型事業を取り巻く環境は、今後も変化していくことが予想されます。利用者にとってより良いサービスを提供するためにも、事業者は常に変化に対応し、経営の安定化を図っていく必要があります。